給湯流茶道

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【トーク&茶会レポ】『へうげもの』と給湯流

tyawan



washizukamiです。
今回は潜入した給湯流茶道茶会の報告です。

給湯流茶会のデモンストレーションを二部構成で実施しました。
その後は、お茶やお酒を飲みながら、モーニング(講談社)連載 
中、山田芳裕『へうげもの』担当編集者・藤沢さんの制作裏話です。
 
山田さんとの打ち合わせの中から出てきたキーワードやエピソー ドから、漫画ができ上がるまでの熱意と苦労と喜び、山田さんの熱筆ぶりを垣間みることができました。
毎回の打ち合わせは、ときに10時間を超えることもあるそうです。
 
学生以来、漫画から遠ざかっていた私が久しぶりに読んだのが、この『へうげもの』でした。新しい視点から見る「茶の湯」の 世界に興奮し、手に汗握り、その汗も引かぬまま一気に一冊を読み終え、次の一冊が待ち遠しい毎日でした。

『へうげもの』の力強い描線と画面構成、ストーリー展開は、まるで映画を観ているような気分。漫画家って、脚本も構成も作画もほぼ一人で全てこなすのですから、いわば映画監督です。
 
山田さん自身も「漫画を描く」=「映画を撮る」という意識をかなり明確にお持ちのようです。
 
***
 
さて、茶の話です。
 
利休〜織部の時代には「茶の湯」だったといいます。「茶道」と呼ばれるようになったのは、のちの時代のこと。「茶の湯」は現代よりもかなり自由で、新しいものを好む戦国武将によって爆発的に広まったようです。
 
やがて作法が細かく精緻に体系化、権威づけられ、いくつもの流派が生まれるとともに、日本人が好きな「道」に則り、武道や華 道同様、「茶道」となっていったようです。
 
『へうげもの』で描かれるのは、まさに利休〜織部の時代の「茶の湯」です。
 
漫画の中に登場する人々の生き生きとした、時に大げさなシーン は、全てフィクションだろうと思い込んでいました。しかし、藤沢さんによれば、史実に基づいて山田さんが創造した フィクションが多数を占めるとのこと。驚きました。
 
たとえば、秀吉に謝罪するため、伊達政宗が派手な衣装をまとい、京の往来を行進、そこへ古田織部が茶碗を投げるというパフォーマンスのシーン。

政宗は実際に「伊達男」の語源とも「かぶき者」の象徴とも言われるやんちゃ男で、白装束で十字架を背負って秀吉の前に現れた逸話など、派手な生き様が当時の書物にも記されているようです。

『へうげもの』の主人公である織部は謎の多い人物ですが、漫画で描かれるような「へうげ」た人だったにちがいない。こうした掛け合いがあったとしても、全然不思議ではない気がし てきます。

これまで、教科書で知る歴史上の人物たちは、みな無表情で、屏風のような平面の世界の中で動く人形の様なイメージでした。
 
漫画の中では、それぞれの人物、人生に瑞々しい命が吹き込まれ、活き活きと輝いているようでした。
『へうげもの』の利休はブラックユーモアを持ち合わせた大男の商人だし、織部は素直で感性豊かな兄やん。山田さんが二人を描くモチーフは、それぞれいかりや長介加藤茶だとか。なかなかイメージをつかめなかった偉大な茶人たちが、私の中でにわかに生き生きと動き出しました。

***

藤沢さんの話の中で、特に心に残った話が二つあります。

●一つは、「身体性」の話。
「織部好み」と呼ばれる茶碗には、わざと極端に歪ませた、ユーモラスでダイナミックな形をしたものが数多くあります。山田さんとの打ち合わせの中で、しばしば話題に上るそうですが、現代の陶芸作家がその歪みを再現しようとしても、作為が目立ったり、巧くでき過ぎたり、アートになってしまったりして、桃山時代の陶工と同じようにはなかなかできないのだといいます。
それは現代人と当時の人たちとの圧倒的な身体性の違いなのかもしれません。

名工・加藤唐九郎が語っていたように、五感の感度が現代人とはまるで違うのでしょう。

●もう一つは、山田さんが考える「笑い as 乙」としての茶の湯の話。
私はこう理解しました。

「乙」な人とは、二番手やサイドBの立場から、影あっての光を楽しみつつ、人生をことごとく笑ってしまえるユーモアと幅のある人のこと。

こう考えると、お茶の時間は決めごと通りの堅苦しいものではなくて、もっと自由で楽しいものに思えてきました。

茶の湯は、人としての生き様を表現し、交感し合い、見つめ直す場なのだと思います。

給湯流茶道が目指すのも、「乙」な工夫を積み上げた、自由で楽しい「笑い」のある「今」をときめく茶の湯です。

かつての陶工が器をひねったり歪ませたりしたように、私も日々の生活に疑問をなげかけ、頭をひねって、新しい茶のあり方を考えていきたいと思います。

文/ワシヅカミ

トーキョーワッショイより転載
http://tkyw.jp/archives/3681843.html


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